図書館と百貨店

従来のビジネスモデルの殻を破りきれず,自らの専門性に悩んでいるのは,図書館だけではない。これは民間企業でも同様で,どのような組織も市場に対して高い価値を提供できなければ淘汰されるだけである。例えば,日本の自動車と電機各社はモジュール化(これは過去の記事を参照)が進む市場で,ものづくりにおける次の競争力を依然として身につけることができていない。また,SE業界各社もGoogleなどによる複雑なシステムの簡素化(人的サービスの自動システムへの置き換え)が進行する中で,自らの専門性が厳しく問われている。

その中でも事業構造や現在置かれている状況が,図書館にとても似ているなと思った組織があるので紹介をしておく。それは百貨店である。

百貨店は,基本的に商品を作らずに,外部で作られたあらゆる商品と店舗を選択・配置することで,利用者に価値を提供する。百貨店の商品は極めて多様であり,一部のヒット商品や売出中の商品を除けば,来店したそれぞれの顧客が同じ商品を購入することは稀である。しかも仕入れたはいいが,顧客に全く触れられることもなく在庫処分になる商品の数も多い。(これに対し,自動車や部品メーカーなどは商品の選択肢が少なく,企業は同じものを作り続けられる特性がある)


また,百貨店にはバイヤー(いわゆる百貨店マン)という専門職がある。かつて花形であった百貨店マンは,ファッションと品揃えの巧みなノウハウや幅広い人脈に基づき顧客に高付加価値の商品(魅力的な商品)を提案してきた。「ハグ」と呼ばれるほど顧客に密着し,誰よりも顧客を熟知していた。そして,それが「百貨店マンの専門性」であった。

しかし,最近は,この百貨店マンの専門性に疑問が投げかけられている。

もちろん,百貨店マンだけが悪いわけではなく,事業構造上の問題から百貨店全体が地盤沈下している。この地盤沈下と共に,百貨店マンの専門性が揺らいでいるわけだ。例えば,顧客が望んでいることがわかっても,その商品を調達できなかったり,商品があることを伝え切れないということが,百貨店マンの間で生じている。このような状況から,業界関係者は,「本当にバイヤーはいるのかと疑問視するほど,百貨店の商品調達力,開発力は弱くなっている」,または,「百貨店の人たちは商品の選別眼に自信を持つが,本当に消費者に歓迎される商品を店頭に並べる目利きに乏しい。うちは百貨店だからということが結果的に井の中の蛙にしている状況があった」と指摘している。

(私はそう思っていないが)「図書館員が専門職だと思っているのは,図書館員だけである」ということを聞いたことがある。

ただ,最近の百貨店は,手をこまぬいているだけではない。最近の百貨店は,商品を選択して配置するだけでは,利益率も低く,魅力あるものを顧客に提案できない(あるいは提案するまでに時間がかかる)ことを理由に,「製造小売り(ユニクロ型)」にも手を出し始めている。例えば,百貨店の高島屋が製造小売りに参入した記事が日本経済新聞(2010年11月16日)に掲載されていたことは記憶に新しい。

また,三越伊勢丹は「さらなる顧客への密着」という原点回帰で未来を創造しようとしているようである。

ファッションのコンサルテーションを始めたところもでてきている。

いずれも,未来の競争力につながる専門性を模索するための努力である。

図書館の専門性を考える私の旅も続く。

(参考文献)
特集 三越伊勢丹の賭け 値引きは顧客のためならず. 日経ビジネス. 2010, no. 1529(2010年2月22日号), p. 26-38.

日本の公立図書館経営における組織形態(研究文献レビュー)

 カレントアウェアネス(No. 303)で,日本の公立図書館の組織形態に関する研究文献のレビューを行ないました。

小泉公乃. 日本の公立図書館経営における組織形態. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1714, p. 28-34.(http://current.ndl.go.jp/ca1714

 ご案内が遅くなってしまいましたが,よろしければ何かの参考にしていただけますと幸いです。

大企業病の症状

先日,ある方とお話をしたときのことです。

職場の同僚の経歴,家族構成,住所・最寄り駅まで,妙に詳しい…。

思い返せば,たまに参加させていただく飲み会などで耳に入ってくる話にも,妙に詳しい経歴情報が含まれていたことがあったような気がします。私はお会いしたこともない方なのに,その人の人生がわかってしまうくらい詳しい内容のものです。

このように,多くの職員が,上司や同僚の経歴などについて熟知している状況は,組織の構成員の関心が内向きで村社会になっている可能性があります。図書館は企業ではありませんが,いわゆる大企業病の症状の一部が出ているということです。

きっと,大企業病の症状が出ている図書館で働いている熱心な図書館員の方は,どことなくどんよりした空気の中で,働きにくい環境にあることと思います。

一方,大企業病ではない組織では,組織の構成員の関心は外向きで「利用者のニーズや利用者へのサービス」が話題の中心になります。従って,自然と図書館員の方は利用者について詳しくなっているはずです。組織の空気も体育会のようにシャキッとしています。

みなさんが所属している組織はいかがでしょうか。

「両方について詳しい場合は?」と質問を受けることがあるのですが,組織の構成員の大部分が利用者のニーズについて詳しかったり,普段の会話から利用者へのサービスが議題になるような場合は,大丈夫なのではないでしょうか。

組織に対する経営者の視点

M&Aなどで,企業がある事業を売却する際に,その事業に関わっている人材の能力の高低とは関係なく(能力の高い人材を自社に引き止めることなどはせずに),その事業に所属している人材を含めてまるごと売却してしまうことがよくあります。それは,なぜかといえば,人材も含めて企業価値を算定していること以外に,以下の引用のような考え方に依拠しているからだと思います。

組織の能力は,その中で働く人材の能力とは無関係である。組織の能力は,ふたつの要素によって決まる。ひとつは,プロセスである。これは,組織の人員が習得した労働力,エネルギー,原材料,情報,資金,技術といった「インプット」を価値の向上という「アウトプット」に変える方法である。もうひとつは,組織の価値基準である。これは,組織の経営者や従業員が優先事項を決定するときに拠り所とする基準である。

クリステンセン,『イノベーションのジレンマ』

つまり,経営者は,事業またはその事業を構成する組織を「人材の能力」というよりは,「プロセス」と「組織の価値基準」というふたつの仕組みで捉えているということ(逆に言えば,組織にいる人材はそこそこであれば誰でもよいということ)です。もちろん,人並みに人材を育成することは重要ですが,それ以上に,「プロセス」と「組織の価値基準」を適切に設定したときのインパクトの方が,組織全体のパフォーマンスの向上にとっては大きいということになります。

現場で,熱心に働いていらっしゃる人からすると,「そんなことはない!」と強く思う気持ちも一方であるかと思います。でも,(私も現場で働いていたのでわかりますが)組織の仕組みや手続き・決まり事などによって,なかなか思うように仕事ができない,こんな組織じゃパフォーマンスを出すのも難しい・・・というジレンマを抱えたことを思い出せば,がっかりしてしまいますが納得できるのではないでしょうか。また,人材のレベルとしてはほとんど同じような企業なのに,業績が大幅に異なる企業というのが数多くあるのも,納得できる理由のひとつのような気がします。

ここまでは,民間企業(特に事業会社)についての話です。

それでは,図書館の組織についてはどうでしょうか。

図書館がサービス業であること,また,通常のサービスではなくレファレンスカウンターなどで人材を介して高度な質問にまで答えるサービスを提供していることを考慮すると,少なくとも,図書館は「(情報や知識の)専門家集団」であるべきと思います。よく,図書館員の方が「図書館員の専門性」とおっしゃるのも,図書館のサービスにとって図書館員の専門性が重要だと現場で働きながら認識しているからなのだと思います。

こうして考えてみると,図書館の場合は,「人材の能力」が図書館の成果に大きく結びつくような気がしてきます。つまり,「人材の能力」が図書館の成果に大きく結びつくのであれば,図書館のマネジメント層も民間企業(特に事業会社)を対象にしたような経営の視点とは,別の視点から考えなければならないわけです。

図書館経営者やその関係者の方々は,民間企業の経営論を真似るのではなく,図書館の組織にあった経営を必死で考えていく必要があるのだと思います。と,自戒の意味もこめまして,ブログに投稿いたします。

「図書館/委託企業」と「図書館の組織」という観点

ゼミの大先輩であるHさんのお誘いで勉強会に参加してきました。
そこにいらっしゃったのは,数名の図書館員の方と数名の業務委託先企業の社員の方でした。

そこで(あらためて)興味深いと思ったのは,図書館といっても,そこで働く職員の所属先を考えるとそれがまったくバラバラなことです。具体的にいえば,利用者として図書館の窓口に立っている人に話しかけた際に,その人が業務委託先A社の社員であり,カウンターの奧の事務室に見える黙々と目録を作成している人は業務委託先B社の社員であるという状況が,多くの図書館で起きているわけです。大きな図書館であれば,数社の業務委託先と契約していることはよくあることですから,それこそ働く職員の所属先は様々になります。もちろん,それが悪いといっているわけではありません。

大事なことは,図書館の組織を考える際に,図書館(正規職員)や委託先企業(非正規職員)と考えるのか,また,それらをひとまとまりの組織と考えるのか,で大きな違いがでてくるということです。

現実的に,民間企業と同様に,図書館(正規職員)だけで完結し続ける組織の状況はありえないのだと思います。また,個人の能力だけをみれば,(経験による知識の差はあるかもしれませんが)正規職員も,非正規職員もそれほど大きな差はない可能性は高いです。

図書館(正規職員)はこっち側で,委託先企業(非正規職員)はあっち側と考えるのではなく,図書館で志を共にしていっしょに働く職員(チーム),また,それらをひとまとまりの組織と考えて,現在はもちろん,未来の図書館について考えていった方が生産的なように思いました。

その中で,図書館経営者は図書館の大事なものを失わない,むしろ,それを増すような舵取りをする。

図書館経営者が,図書館経営における「経営組織」を考える際には,確実に「所属先」ではなく,「ひとつの組織」という観点からみているような気がします。

人材育成と組織の成長

本日(6/25)の日本経済新聞の朝刊(11面)に「トヨタを変える:新体制始動」という記事がありました。小さな見出しに,“雇用維持のハードル”とあります。内容は,「世界経済後退の影響で売上が減少し,生産量を縮小する必要がある状況下で,雇用維持が課題になる」というものでした。社員を人財(人と財産と考えるために“人財”)といって,雇用を維持し続けてきた日本企業(今回の特集はトヨタ)にとって,雇用は聖域とされていました。それが,難しくなってきている状況が描かれています。

なぜ,今,トヨタの「雇用維持」が注目されているのかといえば,それは,過去10年以上にわたる売上拡大・組織拡大を続けてきたトヨタが久しぶりに縮小の段階に入ったからです。

この記事と関連して,組織におけるひとつのキーセンテンスをご紹介しておきます。

それは,

「社員の幸せ(特に人材育成という観点から)を実現するためには,組織は拡大し続ける宿命にある」

というものです。

組織が市場に対して価値を提供するためには,価値を提供できる人を育成し続けなくてはなりません。一般に,人は仕事で成長するといわれていますから,教育だけを施しても市場に価値を提供できる人は育ちません(研修は受けてみたけれど,1週間もしたら忘れてしまうのは仕事が与えられないからです)。市場に高い価値を提供できる人を育成するためには,どんどん大きな,あるいは難しい仕事を与え続ける必要があります。大きな仕事には権限が必要ですから,大きな仕事を与え続けようとしたら,一般的には,昇進させ続ける必要があります。つまり,人は成長するためには,昇進をする必要があるわけです。

ここで問題になるのは,一般的な組織はピラミッド構造になっていますので,社員の数よりも昇進先のポストが少ないということです。

そこに,組織が拡大し続ける宿命があります。

人材育成をしようと考えれば,組織は拡大し続け,ポストを創り続けなければならないわけです。

なかなか売上・利益を拡大し,組織を拡大することができない組織は,全体的に昇進を遅らせたり,課長の下に課長補佐や係長などの肩書きを作ってみたりするわけです。しかし,それは本質的な解決策ではありません。

経営者は,常に組織を拡大させ続けることに使命を感じる必要があります。

翻って,図書館はどうでしょうか。図書館における組織の拡大も,利用者にこれまで以上に高い価値を提供しつづけること以外にないと思います。

このことを体験的に感じながらも,これまで以上に高い価値をなかなか提供できない,あるいは価値を提供したとしても,その成果をうまく示すことができないというジレンマを抱えていらっしゃる図書館のマネジメント層の方も多いと思います。

ですから,ぜひ,そのような図書館員の方々といっしょになって,職員の方々がいきいきと働き,自己の成長を実現していく図書館,またそれを創造する図書館経営を考えていくことができたらと思っているわけです。

個人の総計を超える力。

本日,ワールド・ベースボール・クラシックの日本対韓国戦があり,日本の大勝(7回コールド勝ち)でした。

不振だったイチローがヒットを放ち,他の選手もそれに影響されるかのように,次から次へと打線が繋がりました。ベンチの雰囲気も非常によかったのだと思います。

個人のポジティブな言動や行動の結果が,チームの他のメンバーのポジティブな行動に繋がり,ネガティブな要素さえもポジティブに向かわせていく。そして,個人の力の総計を超えるチームの力を発揮することが可能になる。

KBSの高木晴夫氏は,これを「チーム効力感」と呼んでいます。

これは,組織のトップに立つ原監督やキャプテンのような役割を担うイチローのマネジメントの成果であると思います。(もちろん,日本中のみなさんからの応援も,それを後押ししたのは間違いないでしょう。)

業務が拡大する中,組織の人数が現状維持か減少傾向にある図書館において,その解決のカギ(のひとつ)を握るのはマネジメントであり,「チーム効力感」による生産性の向上にあるのだと思います。図書館から,個人の力の総計を超えるチームの力を発揮した事例が出てくることに期待したいです。また,そのような支援もしていきたいと思っています。