三田図書館・情報学会 月例会(第172回)

三田図書館・情報学会の月例会で,「図書館経営におけるイノベーション」というテーマで発表をしてきます。

テーマ:図書館経営におけるイノベーション
発表者:小泉公乃氏(筑波大学)
日時:2017年9月16日(土)午後2時~4時
場所:慶應義塾大学(三田キャンパス)南館地下2階 2B23

概要:図書館経営は20世紀初頭から経営学と共に発展してきた。経済の後退と技術の革新によって社会が大きく変わりつつある現代では,図書館経営においてもさらなるイノベーションが求められている。しかし図書館経営を学習・経験する機会は限られ,かつ図書館長への異業種からの登用も進み,図書館の理念・理論を理解した上で経営ができる人材は不足している。そこで本発表では,これまでの図書館経営におけるイノベーションを概観し,最新の動向を解説した上で,あるべき図書館経営の姿を共に考え,学ぶ機会としたい。

(引用)http://www.mslis.jp/monthly.html

図書館と百貨店

従来のビジネスモデルの殻を破りきれず,自らの専門性に悩んでいるのは,図書館だけではない。これは民間企業でも同様で,どのような組織も市場に対して高い価値を提供できなければ淘汰されるだけである。例えば,日本の自動車と電機各社はモジュール化(これは過去の記事を参照)が進む市場で,ものづくりにおける次の競争力を依然として身につけることができていない。また,SE業界各社もGoogleなどによる複雑なシステムの簡素化(人的サービスの自動システムへの置き換え)が進行する中で,自らの専門性が厳しく問われている。

その中でも事業構造や現在置かれている状況が,図書館にとても似ているなと思った組織があるので紹介をしておく。それは百貨店である。

百貨店は,基本的に商品を作らずに,外部で作られたあらゆる商品と店舗を選択・配置することで,利用者に価値を提供する。百貨店の商品は極めて多様であり,一部のヒット商品や売出中の商品を除けば,来店したそれぞれの顧客が同じ商品を購入することは稀である。しかも仕入れたはいいが,顧客に全く触れられることもなく在庫処分になる商品の数も多い。(これに対し,自動車や部品メーカーなどは商品の選択肢が少なく,企業は同じものを作り続けられる特性がある)


また,百貨店にはバイヤー(いわゆる百貨店マン)という専門職がある。かつて花形であった百貨店マンは,ファッションと品揃えの巧みなノウハウや幅広い人脈に基づき顧客に高付加価値の商品(魅力的な商品)を提案してきた。「ハグ」と呼ばれるほど顧客に密着し,誰よりも顧客を熟知していた。そして,それが「百貨店マンの専門性」であった。

しかし,最近は,この百貨店マンの専門性に疑問が投げかけられている。

もちろん,百貨店マンだけが悪いわけではなく,事業構造上の問題から百貨店全体が地盤沈下している。この地盤沈下と共に,百貨店マンの専門性が揺らいでいるわけだ。例えば,顧客が望んでいることがわかっても,その商品を調達できなかったり,商品があることを伝え切れないということが,百貨店マンの間で生じている。このような状況から,業界関係者は,「本当にバイヤーはいるのかと疑問視するほど,百貨店の商品調達力,開発力は弱くなっている」,または,「百貨店の人たちは商品の選別眼に自信を持つが,本当に消費者に歓迎される商品を店頭に並べる目利きに乏しい。うちは百貨店だからということが結果的に井の中の蛙にしている状況があった」と指摘している。

(私はそう思っていないが)「図書館員が専門職だと思っているのは,図書館員だけである」ということを聞いたことがある。

ただ,最近の百貨店は,手をこまぬいているだけではない。最近の百貨店は,商品を選択して配置するだけでは,利益率も低く,魅力あるものを顧客に提案できない(あるいは提案するまでに時間がかかる)ことを理由に,「製造小売り(ユニクロ型)」にも手を出し始めている。例えば,百貨店の高島屋が製造小売りに参入した記事が日本経済新聞(2010年11月16日)に掲載されていたことは記憶に新しい。

また,三越伊勢丹は「さらなる顧客への密着」という原点回帰で未来を創造しようとしているようである。

ファッションのコンサルテーションを始めたところもでてきている。

いずれも,未来の競争力につながる専門性を模索するための努力である。

図書館の専門性を考える私の旅も続く。

(参考文献)
特集 三越伊勢丹の賭け 値引きは顧客のためならず. 日経ビジネス. 2010, no. 1529(2010年2月22日号), p. 26-38.

アメリカと日本の図書館

久しぶりの更新。
図書館経営に関する調査を約1ヶ月、アメリカでおこなってきた。

<大学図書館>
ハーバード大学
イェール大学
プリンストン大学
コロンビア大学
ニューヨーク大学
アリゾナ大学
ラトガース大学
マサチューセッツ州立大学アマースト校

<公共図書館>
ニューヨーク公共図書館
ボストン公共図書館
プリンストン公共図書館
ピマ郡立公共図書館

図書館長、管理職、図書館員にインタビューをするなかで一番強く感じたのは、質の高いサービスを利用者に提供しようとする図書館員としてのプライドとその実行力(本気の度合い)の高さだった。

もう一方で感じたことは、アメリカの図書館員も彼らなりに考え、悩み苦しんでいるということである。もしかしたら、彼らは最後まで諦めずに考え抜いているといったほうが適切かもしれない。これは、例えばレファレンスサービスにおける利用者への回答内容(図書館員)から図書館の経営(図書館長)に至るまでである。

また、もう一つ大切だと思ったことは、設備、文化、学生の行動パターン、人事制度などは日本と異なるとはいえ、図書館の基本機能や基本理念はアメリカと日本ではほとんど同じであるということである。図書館経営の観点から、サブジェクト・ライブラリアンという制度をやめて、日本の図書館に近い組織にしたところもある。

当たり前のことのようであるけれど、これらのことをしっかりと認識しておくことは大切だ。これらのことを知っておかないと、アメリカの図書館での出来事を①予算が多いからできること、②文化や学生の行動パターンなどが違うからできること、③アメリカでは人事制度が違うからできること、などと日本の図書館では何もしなくてよい言い訳(というか諦めムード)ができあがってしまう。

もちろん、アメリカのものをそのまま日本の図書館に適用したら、その多くは失敗するだろう。

ただ、日本の図書館も海外から学ぶと同時に、どんどん自ら工夫をして図書館のサービスを考えてよいのだと思う。むしろ、それを考えるために図書館員が存在し、それが専門職というものであると考える。日本発の図書館サービスを海外の図書館員がたくさん見学に来るといったことも、もちろん不可能ではない。

日本の図書館の未来に大いに期待したいし、私もさらにがんばっていきたい。

写真は、Harvard Law School Library。

現場の図書館員にできること(つづき)。

先日,現場の図書館員にできることを書きました。

それは,「積極的に意見すること」と「その際の意見や指摘は正しくなければならないこと」です。

そして,弱い立場にある現場の図書館員として自分たちの意見に耳を傾けてもらうために,もう一つ大切なことがあります。それは,「仕事で成果を上げること」です。

「仕事で成果を上げること」は,私の経験上,多くの経営者に対して,効果的な方法だと思います。

どんな経営者でも,仕事で成果を上げている社員を無視することはできません。むしろ,経営者から気に入られることの方が多く,結果的にその人の発言力が増すことになります。

どんな小さな仕事でも,成果を上げるために全力を尽くすことが大切なのだと思います。

現場の図書館員にできること。

前の記事で,「図書館はどこかの組織に所属していることが多く,予算削減の波が図書館の外から押し寄せてくるので,経営環境としては非常に厳しい状況」と書きました。

先日,図書館長の方々とお話しする機会があったのですが,どの図書館も組織の上層部がかなり熱心に政治的な動きをしないと(動きをしても),現状を打開するのは非常に厳しい環境にあるのではないかと思っています。これは,民間企業でも同様のことで,例えば,組織変革において最もインパクトがあるのは,経営層の刷新である場合も多々あります。

「組織は上(管理職)から作る」のが,組織を構築する上での基本になっていることも,ここに理由があります。

ただ,現場の図書館員としては毎日の仕事があるわけで,経営環境や上層部が変わるまでは待っていられません。しかし,例えば,職員が削減されていくことを目の前にして,いつか予算が増えたらいいなと淡い希望を胸に祈っている間にも,一律○%の予算カットでさらに削減されてしまうのが現状なのだと思います。

そのような中で,現場の図書館員として何ができるのか。

それは,図書館の経営層から意見を求められたとき(例えば,翌年度の経営計画や予算策定のときなど)に,しっかりと意見を述べることです。そして,意見を述べる際に,少なくとも「図書館や図書館が所属する組織の経営環境で重要とされている論点をおさえていること」と「その主張が論理的に正しいこと」が必要になってくるのだと思います。

意見する場をもらったときに,①論点を外していたり,②思い込みの主張(ただのスローガン等)で論理が破綻しているようでは,せっかくの意見も聞いてもらえないということになってしまいます。

そして,このことができるようになるための大前提として,「図書館の経営組織や市場の実態を把握していること」が重要です。つまり,調査や分析をする(最後までやりきる)技能が必要になります。

例えば,現在の市場(世の中)はいったいどうなっているのか。利用者の本当の希望は何なのか。また,利用者はどのように図書館を使っているのか。そして,現在の図書館の組織で利用者の希望を叶えられるのか,etc…。

組織内の政治力や経営層の(誰かの)発言力が多分に影響することは避けることはできませんが,組織内で弱い立場になりがちな現場の図書館(員)として,まず行わなくてはならないことは,自分たちの努力でなんとかなる上記のことだと思います。

つまり,

 ①適切な論点の設定(※できれば長期的視点から)
 ②論理的に正しい主張

です。あとは,

 ③最後まで諦めない根性

でしょうか。図書館員が諦めてしまっては,図書館の未来はありませんから。

もちろん,「根拠に基づいた論理的に正しい主張」をするためには,座学と実務の両面からの研鑽が必要です。それを怠っては事を成すことはできません。

座学が必要になったら,ぜひ,図書館・情報学の大学院で学ぶことなども検討してみてください。熱き心で,共に研鑽して参りましょう。

図書館経営学が必要な理由

公共図書館や大学図書館に関する法律や政策は,ある程度,個々の図書館に共通するものです。しかし,なぜか似たような条件下にある図書館の経営改革の成果が異なっています。大規模であるのに目立った成果が出ていない図書館がある一方で,中・小規模でもそれなりの成果を出している図書館があります。比較的成功している例としては,ビジネス支援サービス(それだけではありません)で有名になった静岡市立御幸町図書館やラーニングコモンズで有名になったお茶の水女子大学の図書館などがあるのかと思います。つまり,(もちろん,法律や政策は大切で,そこから大きな影響は受けていると思いますが)法律や政策だけでは,公共図書館や大学図書館における直接的な成果には結びついていないという状況があります。

このような状況を考えると,それぞれの図書館経営にとって,そうした環境(法律や政策)も経営環境のひとつと考えて良いのだと思います。そして,環境はそれぞれの図書館にとってほぼ等しい条件で存在しているわけですが,その中で図書館を自ら主体的に変革していくのは,個々の図書館のマネジメント層やマネジメント層と一緒になって働く図書館員ということになります。

ここに図書館経営を考える意味があります。

どうすれば,図書館は,現在,あるいは将来の利用者に対して質の高いサービスを提供できるのか。

図書館経営学とは,まさにこうした図書館の経営に関する主体的なプロセスやそれを成立させている組織,また,図書館サービスが提供すべき市場・個々の利用者について,研究する学問なのだと思います。