経営者の言葉:松下幸之助

 

 多くの会社の中には,非常にうまくいっているところもあれば,反対に行き詰まるようなところもある。うまくいっているところは従業員がみな優秀で,行き詰まるところはその反対かといえば決してそうではない。結局,そこに経営があるかないか,いいかえれば経営者がコツをつかんでいるかどうかによって,そうした違いが生じてくるのだろう。その証拠に,経営者一人が代わることで,倒産寸前の会社が隆々と発展した例はいくらでもある。
 経営のない会社は,いわば頭のない人間のようなものである。経営者が経営のコツをつかんでいる会社は強く繁栄発展していくと思うのである。

(松下幸之助:パナソニックグループ創業者 ※旧松下電器産業)

 「組織は頭から腐る」とよくいわれますが,組織における経営者の重要さが伝わってくる重みのある言葉です。

 また,松下幸之助がいう「経営のコツ」が,クリステンセンのいう「プロセス」と「組織の価値基準」というふたつの仕組みなのかもしれませんね。

組織に対する経営者の視点

M&Aなどで,企業がある事業を売却する際に,その事業に関わっている人材の能力の高低とは関係なく(能力の高い人材を自社に引き止めることなどはせずに),その事業に所属している人材を含めてまるごと売却してしまうことがよくあります。それは,なぜかといえば,人材も含めて企業価値を算定していること以外に,以下の引用のような考え方に依拠しているからだと思います。

組織の能力は,その中で働く人材の能力とは無関係である。組織の能力は,ふたつの要素によって決まる。ひとつは,プロセスである。これは,組織の人員が習得した労働力,エネルギー,原材料,情報,資金,技術といった「インプット」を価値の向上という「アウトプット」に変える方法である。もうひとつは,組織の価値基準である。これは,組織の経営者や従業員が優先事項を決定するときに拠り所とする基準である。

クリステンセン,『イノベーションのジレンマ』

つまり,経営者は,事業またはその事業を構成する組織を「人材の能力」というよりは,「プロセス」と「組織の価値基準」というふたつの仕組みで捉えているということ(逆に言えば,組織にいる人材はそこそこであれば誰でもよいということ)です。もちろん,人並みに人材を育成することは重要ですが,それ以上に,「プロセス」と「組織の価値基準」を適切に設定したときのインパクトの方が,組織全体のパフォーマンスの向上にとっては大きいということになります。

現場で,熱心に働いていらっしゃる人からすると,「そんなことはない!」と強く思う気持ちも一方であるかと思います。でも,(私も現場で働いていたのでわかりますが)組織の仕組みや手続き・決まり事などによって,なかなか思うように仕事ができない,こんな組織じゃパフォーマンスを出すのも難しい・・・というジレンマを抱えたことを思い出せば,がっかりしてしまいますが納得できるのではないでしょうか。また,人材のレベルとしてはほとんど同じような企業なのに,業績が大幅に異なる企業というのが数多くあるのも,納得できる理由のひとつのような気がします。

ここまでは,民間企業(特に事業会社)についての話です。

それでは,図書館の組織についてはどうでしょうか。

図書館がサービス業であること,また,通常のサービスではなくレファレンスカウンターなどで人材を介して高度な質問にまで答えるサービスを提供していることを考慮すると,少なくとも,図書館は「(情報や知識の)専門家集団」であるべきと思います。よく,図書館員の方が「図書館員の専門性」とおっしゃるのも,図書館のサービスにとって図書館員の専門性が重要だと現場で働きながら認識しているからなのだと思います。

こうして考えてみると,図書館の場合は,「人材の能力」が図書館の成果に大きく結びつくような気がしてきます。つまり,「人材の能力」が図書館の成果に大きく結びつくのであれば,図書館のマネジメント層も民間企業(特に事業会社)を対象にしたような経営の視点とは,別の視点から考えなければならないわけです。

図書館経営者やその関係者の方々は,民間企業の経営論を真似るのではなく,図書館の組織にあった経営を必死で考えていく必要があるのだと思います。と,自戒の意味もこめまして,ブログに投稿いたします。

経営者・リーダーの言葉:藤沢武夫

「3日間くらい,寝不足続きに考えたとしても間違いない判断が出せるようでなければ,経営者とはいえない。平常のときには問題がないが,経営者の決断場の異常事態発生のとき,年齢からくる粘りのない体での“判断の間違い”が企業を破滅させた例を多く知っている」

(藤沢武夫:本田技研工業)

民間企業で働いていたとき,徹夜明けに,「(経営者になるのであれば)どんなに忙しくても,アウトプットのクオリティを落とすな」と叱られたことがありました。きっと,日々の仕事ひとつひとつが経営者になるための訓練なのだと思います。

また,このことは,研究者を目指す人にとっても共通しているように思います。

図書館経営学が必要な理由

公共図書館や大学図書館に関する法律や政策は,ある程度,個々の図書館に共通するものです。しかし,なぜか似たような条件下にある図書館の経営改革の成果が異なっています。大規模であるのに目立った成果が出ていない図書館がある一方で,中・小規模でもそれなりの成果を出している図書館があります。比較的成功している例としては,ビジネス支援サービス(それだけではありません)で有名になった静岡市立御幸町図書館やラーニングコモンズで有名になったお茶の水女子大学の図書館などがあるのかと思います。つまり,(もちろん,法律や政策は大切で,そこから大きな影響は受けていると思いますが)法律や政策だけでは,公共図書館や大学図書館における直接的な成果には結びついていないという状況があります。

このような状況を考えると,それぞれの図書館経営にとって,そうした環境(法律や政策)も経営環境のひとつと考えて良いのだと思います。そして,環境はそれぞれの図書館にとってほぼ等しい条件で存在しているわけですが,その中で図書館を自ら主体的に変革していくのは,個々の図書館のマネジメント層やマネジメント層と一緒になって働く図書館員ということになります。

ここに図書館経営を考える意味があります。

どうすれば,図書館は,現在,あるいは将来の利用者に対して質の高いサービスを提供できるのか。

図書館経営学とは,まさにこうした図書館の経営に関する主体的なプロセスやそれを成立させている組織,また,図書館サービスが提供すべき市場・個々の利用者について,研究する学問なのだと思います。