事業仕分けと経営再建(2)


 政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)は25日、2010年度予算概算要求の無駄を洗い出す「事業仕分け」後半2日目の作業に入った。国立大学運営費交付金(要求額1兆1700億円)については、人件費など一般管理費は「見直し」、留学生の受け入れなど特定施策を進める特別教育研究経費は「縮減」を求めた。

(中略)

 国立大運営費交付金に対しては、各大学のさらなる経営改善努力の必要性が指摘されたほか、各大学の自主性が高まった法人化後も文部科学省からの出向者が多い点などに批判が集まった。特別教育研究経費については、他の施策と重複しているとの意見が出た。

「時事ドットコム」(2009/11/25,13:35)

 経営再建を実際に行なったことがない素人が,経営改革を行なおうとすると状況を悪化させてしまうことがよくあります。経営の専門家とされる経営コンサルタントですら,その多くは実際に経営を行なったことがなく,実際に経営を執行する立場になるとうまくできないという状況に陥ります。たとえば,McKinsey(外資系コンサルティング会社)出身の南場智子さん(DeNAの創業者で現在の社長)がNHKの番組で,「もし昔のクライアントさんと町中であったら,土下座して謝りたい気持ちです」と話したことがあります。これも,そのことを意味します。

 国立大学運営費交付金に関して,「各大学のさらなる経営改善努力の必要性が指摘され」とありますが,仕分け人のうち,どれだけの人間が経営責任を背負って血の滲むような思いをしたことがあるのでしょうか。そうしたご経験がある方も少しはいるようなので,その人たちに希望を託すしかないわけですが,多数決となると厳しいのかもしれません。

 削減割合まで踏み込んでいないことは幸いですが,この意志決定は,将来の深刻な問題につながるような気がします。

(参考①)
 たとえば,経営再建の現場で同じ目的を達成するとしても,その手順(打ち手の順序)を間違えただけで,すべてが台無しになったりすることが往々にしてあります。大学経営の改善努力を求めるのは結構なのですが,教育機関という長い目で経営を行なわなければならない非営利組織に対して,この事業仕分けの段階で「見直し」という結論は手順が違うと思われます。ここで誤った判断をすると,大学における経営改善の手順すら誤る可能性が高まり,民間企業であれば突然死(経営破綻)ということもありえることだと思います。

(参考②)
 国立大学運営費交付金(説明資料)
 大学の先端的取組支援(説明資料) ※大学関連事業

経営者・リーダーの言葉:松下幸之助

 世間がいかに不景気であろうと,いかに経済が困難であろうと,やるべき仕事は無限と申して良いほどあると私は思うんです。
 不景気であればあるほど,なすべき仕事がある。景気が非常によいときは,景気がよいということから新しい仕事を考える余地がない。だから,現在の忙しい仕事を遂行することだけにとどまってしまう。けれども,不景気であれば考える余地があるし,また考えねばならないということになりますから,無限というほど新しい仕事,新しい方策,そういうものが考えられる。そしてそれに取り組んでいかねばならない,ということになろうかと思うんです。

(松下幸之助:パナソニックグループ創業者 ※旧松下電器産業)

 自分が事業に身を賭していたときに感じたことは,不景気であるほど,また事業が厳しいときほどよく考えなくてはなりませんから,経営のスキルが身に付くということです。このことは図書館経営も一緒なのだと思います。むしろ,図書館の業務量は景気の変動をそれほど受けない(不景気の時に増加するともされている)だけに,もっと難しいかもしれません。

 「おい,小泉。それが脳みそがちぎれるほど考えた結果(事業戦略)なのか?おまえは本当にそれでいいんだな」

 という上司の言葉を思い出します。

(余談です)
後からわかったのですが,「脳みそがちぎれるほど考える」は孫正義からの引用でした。たしか,楽天の三木谷社長も,部下に対して使っている言葉だと友人から聞いたこともあります。

事業仕分けと経営再建

事業仕分けで,文部科学省の「子どもの読書活動推進事業」(2億1200万円)と子どもの体験活動や読書活動の振興を図る「子どもゆめ基金」(21億4400万円)が「廃止」の判断(最終確定ではない)となりました。蓮舫議員は,“(国民に)納得していただける説明がいまひとつ足りなかったようには思います”とのコメントでした。

“無駄を洗い出す”と説明される「事業仕分け」。テレビ番組では,「日本の無駄を洗い出す“仕分け人”」という肩書きを誇らしげにする方までいらっしゃるようです・・。

事業仕分けは民間における企業再建の手法がカスタマイズされて政府に導入されたものと推測されます。

業績が厳しい企業では,どこまで手元の資金がもつかが非常に重要になってきます。そこで経営の専門家たちは,手元の資金を飛行機の燃料に例えて,“資金燃料”や“現金燃料”と呼んだりします。(資金が減っていく割合を“資金燃料率”あるいは“現金燃料率”と呼びます)

現在,私は副業で経営コンサルタントをしていますが,たとえば不振企業に入るとすぐに,現在のままだとあと何ヶ月その企業がもつか,あるいは何ヶ月先に資金燃料切れで墜落(破綻)することになるかを計算するわけです。

業績が厳しいわけですから,墜落する前に新しい利益を創出する何らかの「打ち手」(例えば新商品の開発と市場への投入)を打たないといけません。ただ,打ち手を施しても効果が現れるまでに,ある程度の時間がかかりますから,その前に墜落してしまうリスクもあります。だから,一刻も早く「出血(赤字)を止めなければならない」のです。

そこで,企業が注力している各事業の中で,将来性のないと思われるもの(ノン・コア事業)は撤退することになります。もちろん,事業の撤退には高度な経営判断が必要になりますし,何度も現場に赴いて,状況をひとつずつ確かめていく作業が必要になります。

おそらく,これが政府でいう事業仕分け(の廃止)にあたります。

では,どの事業を撤退するのかということについては,いろいろな決め方がありますが,有名なところではSWOT分析などを使います。もちろん,SWOT分析は入り口で,それ以上の細かい分析をしていくことになります。

また,先ほど「打ち手」と書きましたが,悪性の赤字は止めないといけませんが,良性の赤字(将来への打ち手)は容認(投資)しないといけません。

何かを捨てるということは何かを選ぶということで,事業撤退を検討する際は,「どれをコア事業として残すのか(どこに投資をするか)」が非常に重要になります。

経営者は「どの事業に注力するか」ということで頭の中がいっぱいになります。

従って,経営経験が豊富な人が仕分け人になったら,“無駄を洗い出す”ではなく,“注力すべき事業を選ぶ”「事業仕分け」と自然に説明するようになるはずです。おそらく,「どの事業に注力するか」はマニフェストに記述されており,「悪性の出血を止める」のが事業仕分けということなのだとは思うのですが。

用意した資料に基づいた官僚の説明(説明が下手だったらどうするのでしょう)から,1時間程度の議論で,しかも多数決で決めてしまうのは,それが仮に正しい判断だったとしても,経営経験を持つ人間からするとどうもしっくりこない話です。。

悪性の赤字を一刻も早く止めなくてはならないのは間違いないのですが,誤った意志決定だけはしないで欲しいと心から思います。

“数多くの意思決定を手早く行うことは,間違いである”(ドラッカー)