経営改革の契機

 トヨタ自動車は、アクセルペダルの不具合によるリコール問題で揺れているが、最初に対象となった8車種とその後問題となったプリウスやレクサスHSなどを含めた一時的な販売停止という措置をとった。これは、CNNやBBCのトップニュースでも伝えられている。リコールが当たり前のアメリカでは、GMやフォードなどのようにリコールしながら販売し続ける例が多い。不具合の程度にもよるが、一時的にでも複数車種の販売停止をしたトヨタは、利益よりも顧客の安全を優先した経営判断をおこなったことになる。
 アメリカ政府から販売を停止するように要請があったことが引き金だとか、ブランドを維持するためのパフォーマンスだとか批判するメディアは多いが、これまでのトヨタの経営スタイルや文化を知っていれば、まずは安全第一で意思決定をしたことは自明のことであろう。これを機にトヨタは社内の危機意識をさらに強め、経営改革を進めるという。

 経営コンサルティングをしている自動車部品会社で、人命にかかわる事故が起きたことがあった。高速回転する機械に腕が巻き込まれるものだった。安全面の注意を喚起するだけでは防げない構造的な事故だった。同企業では、この事故が安全面の構造的な見直しをおこなう契機となったのと同時に、業務プロセスを抜本的に見直す契機としている。

 一方、私が事業会社で働いていたときに「うちはどんなミスをしても、人が死ぬことはないから安心して、適当に働いていればいいよ。ほどほどに」と他部署の先輩たちにいわれたことがあった。たしかに、どんなミスをしても人が死ぬことはなかった。しかし、それが仕事を適当にやって良いということになるのか、新入社員ながらに違和感を覚えたことがあった。同企業の社員は、「(その後)会社のトップは迷走しているし、社員はぬるま湯につかっているし、会社は黒字だから経営改革が進まない」と不満を漏らしている。(私の故郷の会社だし、ぜひともがんばって欲しいのが本音だけれど、それを聞くととても残念なことだと思う)

 こうして考えると、経営改革の契機になりやすいのは、顧客や社員の命にかかわる出来事が起きたときであることがわかる。

 もうひとつ、最もわかりやすい経営改革の契機としては、会社生命にかかわる巨額の赤字がある。これが引き金となって経営改革がおこなわれた例として、最近のものは、JAL、ウィルコム、日本の電機メーカー各社などがある。

 では、図書館はどうか。

 図書館事業は、直接的に人命にもかかわらないし、巨額の赤字を拠出するリスクもない。当然、倒産して明日から職員が路頭に迷うリスクも極めて低い。従って、図書館経営者の責任も痛烈に問われることもない。ただ、現場の人材を非正規職員に入れ替えるだけというアウトソーシングをしつづけて、数十年の時間を失っていることを考えると、図書館はなんらかの経営改革をおこなわなくてはならないのは間違いない。

 図書館にとって、人命にかかわる事故や巨額の赤字にかわるものは何なのか。

 図書館経営者の技能と図書館経営者が組織内の危機感をどのように創出するかが、カギとなることは間違いないのだけれど。さて、どうしたものか。