日本の公立図書館経営における組織形態(研究文献レビュー)

 カレントアウェアネス(No. 303)で,日本の公立図書館の組織形態に関する研究文献のレビューを行ないました。

小泉公乃. 日本の公立図書館経営における組織形態. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1714, p. 28-34.(http://current.ndl.go.jp/ca1714

 ご案内が遅くなってしまいましたが,よろしければ何かの参考にしていただけますと幸いです。

ビジネスモデルの変化とコア技術・技能

トヨタのリコール問題に関して、メディアの報道が沈静化してきました。これまで指摘されてきた課題も出尽くした感がありますので、このへんでトヨタや日本の製造業が直面している課題をまとめておこうと思います。

近年、日本の製造業が直面している課題は、主に3つあるとされてい(るように思われ)ます。

(1)デジタル化に伴う部品の多機能化、共通化、ブラックボックス化

(2)エネルギーの変化(これは1990年代から言われ続けている)

(3)国境を越えた人材の外部化(これは1980年代から言われ続けている)

これら3つの課題は、もっと大きい概念の「モジュール化」や「モジュラー化」で、説明される場合もあります。(モジュール化は,2000年前後から特に言われ始めている)

モジュール化とは、「これまでばらばらに全体を構成していた要素が、部分的に集約され、いくつかの要素のグループができるようになること。また、要素から全体を構成する際に、要素をグループ化したことで、グループ(複数の要素)間の結合が簡単になること」です。

もっと難しい言葉では、青木が、

「モジュール」とは、半自律的なサブシステムであって、他の同様なサブシステムと一定のルールに基づいて互いに連結することにより、より複雑なシステムまたはプロセスを構成するものである。そして、一つの複雑なシステムまたはプロセスを一定の連結ルールに基づいて、独立に設計されうる半自律的なサブシステムに分割することを「モジュール化」、ある(連結)ルールの下で独立に設計されうるサブシステム(モジュール)を統合して、複雑なシステムまたはプロセスを構成することを「モジュラリティ」という。

青木昌彦; 安藤晴彦編著. モジュール化:新しい産業アーキテクチャの本質. 東洋経済新報社. 2002, 334p. (経済産業研究所・経済政策レビュー, 4)

としています。

部分的に集約された要素(たとえば、製品で言えば個々の部品の集合)を青木は「半自律的なサブシステム」としています。

トヨタで問題になったブレーキの制御システムについていえば、これまで複数の部品から作られていたブレーキ制御の部品が、IT技術の進展で「1つの電子部品」になりました。複数の部品がそれぞれ果たしていた役割を1つの部品で担うようになるわけですから、その電子部品は「多機能」になります。また、部品の数が少なくなりますから、組み立てが簡単になります。組み立てが簡単になると、部品間のインタフェースの「共通化」が進みますから、様々な車種に同じ部品を組み込みやすくなります。さらに、複数の部品が1つになり「多機能化」したわけですから、1つの部品は複雑化・高度化し、その部品を分解(あるいはプログラムの解読)しない限り、中身がどうなっているか分からなくなります。これが、「ブラックボックス化」です。ブレーキの制御システムにバグがあるのかないのかについて判然としないのも、ブラックボックス化の影響で、自分たちでコントロールしにくくなっているからです。

これが、1番目の「デジタル化に伴う部品の多機能化、共通化、ブラックボックス化」です。

2番目の「エネルギーの変化」は、「オイル(ガソリン)」から「電気」への変化です。これが、モジュール化を加速させます。自動車は、ガソリン自動車から電気自動車に変わろうとしています。電気自動車では、モーターが動力になり、ガソリンエンジンに必要だった数多くの部品を複雑に組み合わせる(擦り合わせ)る技能は不要になりました。

3番目の「国境を越えた人材の外部化」は、組織のモジュール化です。1つの部品が複雑化した一方で、部品が共通化すると市場規模も大きくなるので、部品ごとに企業が参入しやすくなります。結果として、コア技術・技能が必要となる部品以外を外部化(アウトソース)することが可能になり、外部化が効率的になります。各部品で機能や品質の高いものを作れる企業を選択していくと、IT技術の進展も相俟って、国境を越えることになります。製品がモジュール化することで、組織もモジュール化します。
また、部品数が少なくなれば、綿密な擦り合わせの必要もなくなりますから、組織の各モジュール間での密接な連携も必要なくなります。結果的に、企業は機能別に組織のモジュールを切り離しやすくなります。ノウハウのあまり必要ない組み立て業務が、人件費の安い新興国にアウトソースされるのも、組織のモジュール化といえるわけです。

これらをまとめると、

(組織がクローズ&擦り合わせ)→(組織がオープン&組み合わせ)

となり、これは、

(擦り合わせ型:インテグラル)→(組み合わせ型:モジュール/モジュラリティ)

とも言われます。これが、ビジネスモデルの変化です。

パソコンがいち早くモジュール化し、新興国に組み立て作業がアウトソースされたのは、よく知られた話です。Sonyのウォークマン(擦り合わせによる軽薄短小化)が、AppleのiPod(メモリとプログラムの簡単な組み合わせ)に置き換えられたのも、同じ現象です。そして、今は、パソコンやiPodの後を液晶テレビや自動車がモジュール化に向けて走っているというわけです。

なお、このブログは、「図書館経営」を考えるブログですから、製造業におけるモジュール化という現象について、理解を深めるだけでは足りません。

こうした製造業に見るモジュール化という現象のポイントは、「過去のコア技術・技能が、現在の市場で通用しなくなりつつある」、あるいは、「どんな大企業でも、コア技術・技能が違う市場(ビジネスモデルが違う市場)で戦うと負けてしまう」ということです。

トヨタは、系列企業を含めた擦り合わせの技術・技能によって高品質を競争力としてきたわけですから、「擦り合わせなんていらないよ。簡単に組み立てても高品質になっちゃうよ」と言われると、「さぁ、大変!」となります。しかも、「トヨタさん、電子部品のプログラムは書けますか?」と問われると、「これまであんまりやったことないから、よくわかりません・・(ブラックボックス)」いうことになるわけです。

つまり、ここでの私たちの学びは、「従来からある自分たち(図書館)のコア技術・技能が、現代社会でも競争力に繋がっているか(直結しているか)」を構造的に知っておく必要があるということです。この「競争力」という言葉は、他機関や企業と比べたときの「図書館が提供する社会的な意義や価値」に置換えてもよいと思います。

図書館のコア技術・技能とは、一体何なのでしょう?
そして、それが今の世の中にどれだけの価値を提供するのでしょう?
また、将来的に図書館に求められるコア技術・技能とは何なのでしょう?

図書館(特に図書館の経営者)は、常にこうした問いに答えることができなければならないのだと思います。